わさび
日本料理には欠かせない「わさび」。
静岡県は、国内でも有数のわさび生産額を誇ります。なかでも伊豆半島の中央部、天城山周辺は品質、栽培面積、生産量ともに多く「伊豆と言えばわさび」と言われるほどです。
自然
わさびは涼しい日影を好む植物で、大きく育つには有機物や土などが混ざらない水温13~15℃ほどの水が絶えず必要です。1kgの米を育てるには2トン程度の水が必要ですが、同じ量のわさびを育てるには30トン以上の水が必要とされ
ています。険しい天城の地形は日差しからわさびを守る日影を、山すそからの湧水は質の良いわさびを育てるのにとても適しています。
わさびの葉は直射日光にさらされると葉焼けを起こしてしまいます。そこで日陰が必要なのですが、天城の山に抱かれた深い谷間は自然の遮光壁。陽が真上に達する正午前後しか直射日光は谷底には届きません。
また長い時間を経て湧き出す地下水は地中の温度に一致します。地中の温度はその土地の年平均気温になります。あいにくと天城山中の通年気象観測はありませんが、最寄りのアメダスデータから推測すると、天城山麓の年平均気温は14℃程度。1年を通してわさび栽培に最適な温度の湧き水がふんだんにあるのが天城です。
自然ーたくさんの雨
日本列島の太平洋沿岸を流れる黒潮は、海に面した地域にたくさんの雨をもたらします。伊豆周辺を流れる黒潮は伊豆とその南に続く火山弧にぶつかり複雑に向きを変え、伊豆半島周辺にも流れ込みます。
暖かい黒潮は湿った風を半島にもたらし、標高1000mを越える天城の山々に年間4000mmを越えるようなたくさんの雨を降らせます。
自然ー雨をたくわえる大地と湧水
天城火山は、伊豆と本州が衝突したあとにできた大きな陸上火山です。20万年前ころまで噴火を繰り返していたこの火山は、伊豆の中では新しい火山です。こうした新しい火山に降ったたくさんの雨は、溶岩の亀裂などを通じて地下にたくわえられ、古く水を通しにくい地層に沿って帯水層を作り、やがて山すそから湧き出します。
こうして湧き出す豊富な水が、天城特産のわさびを育てるのです。
歴史ーなりたち
天城のわさび栽培の歴史は古く、1700年代頃から栽培がはじまったという記録があります。当時の天城一帯は江戸幕府の御料地で、収穫されたわさびは江戸の市場でも高値で取引されました。明治以降も鉄道の開通とともにわさび漬なども広く出荷されるようになり、昭和初期に築地市場が開設されてからは鮮魚とともにわさびの需要は拡大していきました。
現在も、品種や栽培技術を改良しながらも、昔ながらの「わさび沢」でのわさび栽培が続けられています。
歴史ーわさびを育てる技
天城のわさび栽培には、1892年に旧中伊豆町の平井熊太朗が考案した「畳石式」のわさび沢が用いられています。
石を積み上げて作る「畳石式」は豊富な水を必要としますが、品質の良いわさびが収穫できます。わさび沢を流れる水の管理をはじめ、古くからの技術を継承しながら天城のわさびは育てられています。
世界的価値
特徴ある自然、独自の歴史によって発展してきた伊豆のわさび栽培は他の地域にはなく、
世界的価値を持っています。2017年夏、ユネスコ世界ジオパーク認定に向けて行われた
現地審査では、海外の専門家が湯ヶ島のわさび田を視察し、ジオパークとの親和性も非常に高いと評価を受け、2018年4月に伊豆半島はユネスコ世界ジオパークに認定されました。 また、2018年3月、「静岡水わさびの伝統栽培」が世界農業遺産に登録されました。