2012.05.01
映画「わが母の記」~伊豆の原風景がここに!~
井上靖原作「わが母の記」が4月28日(土)より全国ロードショーにて公開されています。
出演:役所広司、樹木希林、宮崎あおい ほか
監督・脚本:原田眞人
公開を記念して、映画「わが母の記」に登場するジオサイトを紹介!
映画では、渓谷沿いを伊上洪作(役所広司)と末娘の琴子(宮崎あおい)が歩いているシーンなどで使われている滑沢渓谷は、湯ヶ島温泉から天城峠方面に約6kmの山間にあります。この美しい渓谷は、井上靖の処女作「猟銃」の舞台にもなりました。
滑沢渓谷の底につづくなめらかな一枚岩は、谷を埋めて流れた溶岩です。その表面には美しい節理(溶岩が冷却する際にできた割れ目)が刻まれていて、独特の表情をもった溶岩と、その上を滑るように流れる川の流れに、しばし日常を忘れるほどです。
この溶岩を流した火山の火口は、滑沢の上流のどこかにあったはずですが、浸食により火口の地形は失われており、火口の位置も噴火年代もよくわかっていません。渓谷沿いの遊歩道を歩くと、井上靖の文学碑や静岡県の天然記念物にも指定されている「天城の太郎杉」にも出会うことができます。
・ジオサイトページを見る:滑沢渓谷
筏場といえば、わさび田!大見川の上流に位置する筏場のわさび田は、静岡県の棚田10選にも選出されている。巡回図書館が走っていくシーン、洪作(役所広司)がわさび田で同級生に声をかけられるシーンなどで使われたこの地にどうして美しいわさび田の風景が広がるのでしょうか。
火山から流れ出た溶岩流には、たくさんの亀裂やすき間があります。伊豆の山に降るたくさんの雨は、こうした溶岩のすき間に蓄えられます。
天城山系の溶岩流の割れ目に蓄えられた大量の地下水は、あちらこちらで湧き出し、沢となって流れていきます。温度の安定した清流が、わさびの生育の適地となっているのです。
・ジオサイトページを見る:筏場のわさび田
沼津市の下香貫にある牛臥山公園内にある小浜海岸は、早朝の家族再会の場として登場。大山巌の別荘跡の前にある海岸が撮影地となり、洪作(役所広司)が母の八重(樹木希林)を背負って歩く感動のシーンです。
伊豆半島ジオパーク構想としては、牛臥山の麓にあるこの公園付近の海岸に見られる崖に注目。伊豆半島がまだ海底火山だったころ、海底を流れた溶岩流や土石流の跡が観察できます(波打ち際で観察する場合は、ご注意ください) 。
牛臥山の西の麓にある大朝神社には、日蓮が津波被害に苦しむ住民のために祈祷を行ったという伝説が伝えられており、また、1854年の安政東海地震に伴う津波は、下香貫付近の内陸に侵入し、池を作ったことが当時の絵図に書かれるなど、後世のために津波の伝説・記録が残されている地域でもあります。牛臥山公園のすぐ側には明治、大正、昭和の3代に渡り使用された沼津御用邸が記念公園として整備され、歴史学習の場として使用されています。
・ジオサイトページを見る:牛臥山公園
映画「わが母の記」には、小室山そのものは登場しません。小室山の溶岩流が作りだした台地に築かれたホテルが優雅に登場。昭和11年開業の川奈ホテルです。伝統と格式を感じるこの川奈ホテルは、母・八重(樹木希林)の誕生日を祝うために、洪作をはじめ家族みんなが訪れる地です。
ホテルの西に位置する小室山(標高321m)は、およそ1万5千年前の噴火の際に溶岩のしぶき(スコリア)が降り積もってできたスコリア丘と呼ばれる火山ですが、その小さな山体とは裏腹に、約5億3000万トンという伊豆東部火山群最大の溶岩を流しました。
山の四方に花びらを広げるように溶岩を流した小室山。東側に流れて相模湾を埋め立てた溶岩台地を利用して作られているのが、川奈ホテルです。川奈ホテルには、この独特の台地や斜面、溶岩の先に見える海や風を利用して作られた自然豊かな「川奈ホテルゴルフコース」があり、長い間世界中の人々から愛されてきた静岡県最古のこのゴルフ場では、毎年4月にフジサンケイレディス・クラシックも開催され、多くのギャラリーが訪れています。
また、小室山の山頂にはリフトで登ることができ、麓にある小室山公園では、毎年4月末から5月初旬にはツツジ、2月中旬から3月にはツバキを観賞することができます。
・ジオサイトページを見る:小室山